「最近、仕事が覚えられない」
50代で転職した人なら、一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。
私もそうでした。
しかも未経験のホテル勤務です。
覚えることは山ほどあります。
チェックイン。
チェックアウト。
電話対応。
予約確認。
精算業務。
さらに海外のお客様も来ます。
正直に言うと、最初は英語が聞こえただけで身構えていました。
ところが最近、あることに気づいたのです。
仕事ができる人は記憶力が良いのではない。
仕組みを持っているだけかもしれない、と。
今日はそんな話です。
■ 英語が飛び交うフロントで焦る毎日
私の職場には海外からのお客様がたくさん来ます。
日本人スタッフ。
韓国人スタッフ。
海外からのお客様。
時には全員が片言の英語で会話しています。
傍から見ると少し面白い光景です。
でも現場は必死です。
何を言われているのか分からない。
どう返事をしたらいいのか分からない。
特に転職したばかりの頃は、仕事そのものを覚えるだけで精一杯でした。
英語まで勉強する余裕などありません。
「また英語のお客様だ……」
そんなふうに身構えていた時期もありました。
■ 全部覚えるのをやめた
ある日、ふと思いました。
全部覚えようとするから苦しいのではないか。
そこで発想を変えました。
覚えるのではなく、よく使うものだけ先に準備しよう。
私が最初に作ったのは二つの引き出しです。
「パスポートを見せてください」
「QRコードを見せてください」
たったこれだけでした。
ホテルのチェックインでは何度も使います。
逆に言えば、この二つが言えれば最初のやり取りはかなり進みます。
英会話の本を丸暗記したわけではありません。
難しい文法を勉強したわけでもありません。
本当に二つだけです。
すると不思議なことが起きました。
仕事が急に楽になったのです。
■ 人は覚えられないから苦しいのではない
私は長い間、
「仕事が覚えられない自分が悪い」
と思っていました。
でも違いました。
本当に苦しかったのは、
覚えられないことではなく、
覚えようとしていたことでした。
人間の頭には限界があります。
若い頃でもそうです。
まして50代になれば、
覚える速度も若い頃とは違います。
ところが多くの人は、
若い頃と同じやり方で戦おうとします。
全部覚えようとする。
全部頭に入れようとする。
全部自分の力で何とかしようとする。
だから苦しくなる。
実際には、
全部覚える必要などない場合がほとんどです。
■ 仕事ができる人は何が違うのか
教員時代も、今のホテルでも感じることがあります。
仕事ができる人ほど、
実は全部を覚えていません。
メモを取っています。
一覧表を作っています。
チェックリストを作っています。
よくある質問集を作っています。
つまり、
忘れない人なのではなく、
忘れても大丈夫な仕組みを持っている人なのです。
私はこれを知った時、かなり気が楽になりました。
なぜなら、
仕事ができない原因が能力不足ではなく、
仕組み不足かもしれないと思えたからです。
■ アンチョコ一枚が仕事を変える
私は今でもアンチョコを作ります。
仕事で困ったことがあれば書く。
よく聞かれることがあれば書く。
ミスしたことがあれば書く。
すると次に同じ場面が来た時、
頭の中に引き出しができます。
引き出しが増えるほど、
仕事は楽になります。
面白いことに、
頭が良くなったわけではありません。
記憶力が上がったわけでもありません。
ただ取り出しやすくなっただけです。
それだけでミスは減ります。
焦りも減ります。
仕事が回り始めます。
■ 形意拳も同じだった
私は30年以上、中国武術の形意拳を続けています。
形意拳の稽古は意外なほど地味です。
同じ動きを繰り返します。
立つ。
歩く。
打つ。
また立つ。
派手な技を次々覚えるわけではありません。
なぜか。
体に引き出しを作るためです。
考えなくても動ける状態を作るためです。
仕事も似ています。
覚えることを増やすより、
取り出しやすい状態を作る。
その方が結果的に強い。
最近はそう感じています。
■ 人生再建も仕組みから始まった
振り返ると、
私の人生の立て直しも同じでした。
最初から人生を変えようと思ったわけではありません。
やることリストを書く。
メモを取る。
アンチョコを作る。
小さな仕組みを一つずつ増やす。
ただそれだけでした。
でも人生が苦しい時ほど、
大きな一歩より小さな仕組みの方が役に立ちます。
なぜなら、
気合いは切れるからです。
根性も続きません。
しかし仕組みは残ります。
体調が悪い日も。
落ち込んだ日も。
仕組みは働いてくれます。
だから人生を支えてくれます。
■ 仕事が覚えられないのではなく、引き出しが足りないだけかもしれない
もし今、
「仕事が覚えられない」
と悩んでいるなら、一度だけ考えてみてください。
本当に覚えられないのでしょうか。
それとも、
取り出しやすい引き出しがまだないだけでしょうか。
今日の仕事で困ったことを一つだけ書き出してみる。
よく使う言葉を一つだけメモする。
よくあるミスを一つだけまとめる。
それだけで十分です。
人生は大きく変えなくていい。
まずは引き出しを一つ増やす。
私は英語がペラペラになったわけではありません。
優秀になったわけでもありません。
ただ引き出しを作っただけです。
そして気づけば、
以前より少し楽に働けるようになっていました。
もしかしたら、
あなたに必要なのも努力不足ではなく、
引き出しを増やすことなのかもしれません。
人生は何歳からでも立て直せる。
何度でも立て直せる。
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