仕事のミスが多いのは能力不足だからだと思っていた
ホテル業界へ転職したばかりの頃、私は毎日のようにミスをしていました。
お客様への案内を間違える。
確認事項を忘れる。
引き継ぎが抜ける。
頭では分かっているつもりなのに、忙しくなると抜けてしまう。
そのたびに落ち込みました。
「自分は仕事ができない人間なのかもしれない」
「この歳で未経験転職なんて無謀だったのかもしれない」
そんなことばかり考えていました。
仕事でミスが多いと、自信もどんどん削られていきます。
特に未経験の仕事では、周りと比べてしまうものです。
私は当時、仕事のミスを減らす方法を必死に探していました。
でも今振り返ると、解決しようとしている問題そのものを勘違いしていたのです。
ミスを減らしたかったのに、能力を上げようとしていた
当時の私は、
「もっと覚えなければ」
「もっと努力しなければ」
「もっと集中しなければ」
と思っていました。
つまり、能力を上げようとしていたのです。
しかし現実は違いました。
覚えることが多すぎる。
やることが多すぎる。
確認事項が多すぎる。
人間の頭だけで管理するには限界があったのです。
考えてみれば当たり前でした。
宿泊プラン。
館内案内。
予約システム。
精算方法。
引き継ぎ事項。
電話対応。
しかも日によって状況が変わります。
そんなものを全部頭で管理しようとしていたのですから、パンクして当然です。
私は仕事のミスが多い原因を能力不足だと思っていました。
でも実際は、情報量に対して管理方法が追いついていなかっただけでした。
仕事ができる人ほど「覚えていない」
ある時から、職場の仕事ができる人たちを観察するようになりました。
すると意外なことに気づきました。
その人たちは、全部覚えているわけではなかったのです。
メモを取る。
一覧表を作る。
確認する。
チェックする。
分からなければ見る。
むしろ徹底的に記憶へ頼っていませんでした。
私はずっと、
「仕事ができる人=忘れない人」
だと思っていました。
しかし実際は違いました。
本当に仕事ができる人は、
「忘れても大丈夫な仕組みを持っている人」
だったのです。
これは私にとって大きな発見でした。
形意拳の稽古も同じだった
私は長年、形意拳を続けています。
中国武術と聞くと、派手な技を想像する人もいるかもしれません。
しかし実際の稽古は驚くほど地味です。
立禅。
五行拳。
単純な動作の反復。
何度も何度も同じことを繰り返します。
最初は、
「もっとすごい技を練習しないのか」
と思ったこともありました。
でも長く続けるうちに分かってきました。
人間は複雑なことを続けられない。
だから基礎を体に染み込ませる。
考えなくても自然に動ける状態を作る。
それが本当の稽古なのだと。
仕事も同じでした。
能力を上げようとするより、自然にできる仕組みを作った方が強いのです。
私が作った小さな仕組み
そこから私は、仕事のやり方を変え始めました。
まず作ったのがアンチョコです。
先輩から教わったこと。
よく聞かれること。
間違えやすいこと。
全部ノートへ書きました。
最初はメモ用紙でした。
しかしメモが散らかってしまい、どこに書いたか分からなくなりました。
そこで一冊のノートにまとめることにしたのです。
すると分からないことがあっても慌てなくなりました。
次に始めたのがやることリストです。
以前は頭の中で管理していました。
しかし抜けが発生します。
そこで紙へ書くようにしました。
やるべきことを見える化する。
終わったら消す。
ただそれだけです。
それでも確認漏れは大幅に減りました。
さらに定位置管理も始めました。
鍵はここ。
伝票はここ。
メモ帳はここ。
探し物をする時間が減ると、不思議なくらいミスも減ります。
焦る時間が減るからです。
最近は失敗した内容も記録しています。
同じミスを繰り返さないためです。
失敗を責めるのではなく、再発防止の材料にする。
その考え方へ変わっていきました。
人を締め付けてもミスは減らない
現場で働いていると時々思います。
ミスが起きた時、多くの職場は人を責めます。
「気をつけろ」
「確認しろ」
「次はミスするな」
もちろん気持ちは分かります。
しかし、それだけで解決するなら誰も苦労しません。
最近も職場では、精算ミス対策として確認作業が増えました。
確かに確認は大切です。
しかし業務量だけが増えてしまうと、別のミスが生まれることもあります。
私はここに大きな違いがあると思っています。
人を締め付ける方法。
仕組みで防ぐ方法。
同じミス防止でも考え方が違います。
人は疲れます。
忘れます。
焦ります。
だから人間に完璧を求めるのではなく、ミスが起きにくい仕組みを作る方が現実的です。
能力より仕組みを信じる
昔の私は、ミスをするたびに自分の能力を疑っていました。
でも今は少し考え方が変わりました。
人間は忘れます。
これは欠点ではありません。
そういう生き物です。
だから必要なのは、自分を責めることではありません。
忘れても大丈夫な仕組みを作ることです。
アンチョコを作る。
やることリストを書く。
チェックシートを使う。
定位置を決める。
失敗を記録する。
どれも地味です。
しかし地味な工夫ほど長く効きます。
形意拳の稽古がそうであるように、派手な技より基礎の反復が土台になります。
仕事も同じです。
もし今、仕事のミスが多いことで悩んでいるなら、自分の能力だけを疑わないでください。
一度、自分の仕組みを見直してみてください。
案外、問題は能力ではなく環境ややり方の方にあるかもしれません。
私自身、そうやって少しずつ前へ進めるようになりました。
人生は何歳からでも建て直せる。
何度でも建て直せる。
